これからの訓練の説明がなされていく。
敵が陣地を構築した“赤の台”。説明のため、赤い旗を振っている。
今回の状況設定は以下のものである。観客席から向かって左側(“赤の台”)に、敵部隊が拠点を構築、付近に地雷を埋設した。これに対し第13普通科連隊をはじめとする自衛隊部隊がこれを掃討すると云うものである。
アナウンスが男性に代わった。「状況開始!」その一言でついに戦闘が開始された。音楽隊が高らかに「ワルキューレの騎行」を演奏し、その音色の向こうで戦況の連絡を模した放送が鳴り響く。
演習場上空に進出するUH-60(左上)。
ラペリング用ロープを投下し(右上)、2名のレンジャー隊員がラペリング降下を行った(下)
まず進出してきたのはUH-60“ブラックホーク”ヘリコプターである。北側上空より侵入し、演習場中央付近でホバリングを始めた。そして2名のレンジャー隊員がラペリング降下。アナウンスによると、彼らは敵への偵察を行うそうである。2名と少数なのはもともとその予定だったのか、それとも強風による現場の判断なのかは不明であるが。
偵察を行うOH-6。このヘリは他にも連絡や着弾観測なども行う
更に、南の空からOH-6“スカイユース”ヘリコプターが登場、赤の台上空を旋回し、敵地の偵察を行った。
偵察隊のバイクによる威力偵察。機動性を披露したあと、走行間射撃(走行中のバイクの上から小銃射撃をすること)や、バイクを盾にした射撃を行った。
その後、オートバイによる威力偵察が開始される。オートバイならではの機動力を披露した後、エンジンを盾に89式小銃による攻撃を加えた。
81mm迫撃砲を設置する隊員。その他、120mm重迫撃砲、96式多目的誘導弾(MLRS)などの砲が設置された。
とうとう掃討作戦が展開される。トラックなどで展開を始めたのが特科(砲兵)部隊。迫撃砲や誘導弾など、各種火砲を一通り説明する。
演習場上空を横切り(左上)、赤の台上空を旋回した後(右上)バルカン砲で攻撃を加える(という想定。バルカン砲が展開されているのがお判りだろうか)AH-1S(下)
続けて展開するのは登場するのはAH-1S“コブラ”ヘリコプター。残念ながらバルカン砲等の空砲射撃は演じなかったものの、赤の台上空を度重なり低空飛行し、その機動力を存分に発揮した。
155mm榴弾砲(FH70)が発射された。公募で選ばれた愛称は“サンダーストーン”だが、まさに雷鳴のような砲撃音である
と、特科部隊が赤の台に対し攻撃を開始した。空砲とはいえ、鈍い爆発音が立て続けに鳴り響き、その威力のすさまじさを肌で感じた。火器説明の中で“この砲はここから松本空港を狙える”などという解説があったが、それも冗談ではないことが実感できる
特科部隊の支援を受け、前進する普通科隊員。
81mm迫撃砲の装填が準備される。迫撃砲は前装(砲弾を砲口から装填する)砲なので、1名が砲弾を手に発射準備を、もう1名は右手を挙げ発射の合図を行う。
とうとう普通科部隊の攻撃が開始された。73式ジープや高機動車に乗った普通科隊員が各小隊ごとに展開、特科部隊の支援の元、赤の台まで侵攻する。月並みな表現だが、まさに映画のワンシーン。当然、赤の台からも反撃が起こる。小銃の発射音が幾重にも重なり、それをかき消そう
とするかのごとく、火砲が火を吹く。“火”と云っても、派手に閃光が見えることはない。しかし、それが逆に“本物”であることを印象づけた。
92式地雷原爆破装置により地雷が爆破処理されたため、普通科部隊が一気に突撃する。
更に地雷原を開拓、後の普通科(歩兵)部隊の侵攻経路を確保する。
しかし、ここでふと思った。第12旅団は2002年の再編成以来、“空中機動部隊”としてヘリコプターによる移動をメインとし、装甲車の類を配備していない(化学防護車を除く)。つまり、もし実際にこの訓練のように開けた場所で、また近年想定される市街地で戦闘が起きた場合、普通科隊員は遮蔽物がない場所をどう移動するのか。確かにヘリボーンでは装甲を施した車両は重すぎて輸送出来ないかもしれないが、73式ジープも高機動車も現在装甲防弾性能が無いのだから、これらに追加装甲を加えて使用するべきではないかと思う。
度重なる攻撃により、敵部隊はかなりの損耗を受け、反撃さえままならなくなった。そして、ついに普通科隊員にこの指令が下る。
突撃の合図を受け、赤の台に攻め込む隊員。小銃には銃剣が取り付けられている
「突撃!」
今まで匍匐と駆け足で赤の台に接近を試みていた全隊員が、小銃を抱え全力疾走を始める。もはや敵部隊は壊滅を免れることは出来ない。最後の自衛隊員が丘の向こうへ突撃していった。
右奥の敵陣地の様子を伺う隊員
「状況終わり」。すべて――そう、すべてが終わった瞬間だった。敵部隊は壊滅した。敵兵の殆どは死亡、負傷しただろう。無論これは訓練である。状況が終われば、“敵”役の隊員も“自衛隊員”に戻る。しかし、もしこれが本物の戦闘、戦争であれば・・・状況が終わっても、戻らない人たちが必ず出てくる。国へ、故郷へ、家族の元へ。それは決してあってはならない話だ。しかし現代社会においては、あるえる話でもある。
状況終了と同時に打ち上げられた発煙弾
もし我が国が侵略の危機に侵されたとしたら。我が国民がひとりでも“戻れない”事態に陥ったとしたら。だからこそ自衛隊が居る。自衛隊員は、いや、例え何処の国の兵士であろうと、自分が、家族が、故郷が、国が“戻る”ために戦うのだ。国へ、故郷へ、家族の元へ。そして、平和の元へ。
訓練後、後片付けや消火作業を行う隊員。