実銃
1947年にスイスのSIG(Schweizerische Industrie-Gesellschaft:スイス工業社)が開発したP210(発売当初の製品名はSP47/8)は、グリップした右手親指で操作出来るレバー類などの高いデザイン性と、堅牢なロングバレルが生み出す命中精度により、軍やシューターから非常に好感を持たれた。こうして、スイス軍やスウェーデン軍、西ドイツ国境警備隊が正式採用したP210であったが、削り出しのボディは生産効率が悪いだけでなく、コストも非常にかかり1挺1500〜2000ドルという高値となった為、市場での成功には至らなかった。SIGはこの点を改良すべく、1976年に株式買収したドイツのザウエル&ゾーン(英語名サワー)社と共同で、P210を踏まえたコンバットオートマティックピストルを開発する。
1975年に開発されたP220は、レバー類の位置などP210の長所を生かしつつ、プレス加工とロストワックス製法によりコストダウンと品質の維持・向上を行った。さらに、マニュアルセーフティを排除、その代わりコックされたハンマーをハーフコックポジション(安全位置)までダウンさせるデコッキングレバーを採用し、速射性も確保した。口径は一般的な9×19mmのほか、アメリカ市場への輸出も考慮し、.38Superと45ACPも揃えられた。どの口径でも共用とするため、フレームなどが45ACP弾にあわせた若干大きめのものとなっている。精度の良さはSIGの技術により維持され、76年にはスイス軍が、82年には自衛隊も正式採用としている。
SIGとザウエルはその後、その後9×19mm口径のコンパクトモデルのP225(77’)、P220のマガジンをダブルカアラム化したP226(81’)、P226のコンパクトバージョンであるP228(89’)、P228の40S&W口径のマイナーチェンジ版P229(91’)を次々と発表した。いずれのモデルも、高精度で耐久性に優れ、非常に信頼性の高いものであった。P225はドイツ警察および国境警備隊、関税事務所に採用され、P226はアメリカ海軍特殊部隊SEALsにP226をMk24名で採用された。P228はアメリカ陸軍・海兵隊にM11名で、またイギリス陸軍特殊部隊SAS、ドイツ国境警備隊特殊部隊GSG-9、日本警察特殊部隊SAT、海上保安庁特殊警備隊SSTなど、P229もFBIやアメリカ合衆国シークレットサービスなどに採用されている。
今までのP220シリーズはコストダウンのため、スライドをプレス加工で製造していたが、P229は強力な40S&W弾を使用するため、強度維持のため削り出しで製造されることになった。これをきっかけに、P220シリーズの他のモデルでもスライドは削り出しで製造されるようになった。削り出しのスライドでは、プレス加工のものと比べて上面のデザイン変更や、エキストラクターの外装化など違いがある。また、アメリカ輸出仕様のP220はマガジンキャッチがコンティネンタルタイプ(マガジンキャッチがグリップ底部にあるタイプ)からボタンタイプへと変更されており、口径は45ACPのみとなっている。
作動方式はブローニング式ショートリコイルだが、それまでの銃がバレル後端のラグとスライド内部のリセスによって行っていたスライドのロックを、ブロック型の薬室前端部分とスライドのエジェクションポートを噛み合わせることによって行う。この改良型ブローニング方式は、後に設計されるハンドガンの多くに採用されるようになる。
なお、2000年にSIGから銃器部門と商標が買収されたため、ザウエル&ゾーンはJ.P.ザウエル&ゾーンとして独立した。しかし、「SIG SAUER」の商標をSIGより得たことで、P220シリーズは今なお「SIG SAUER」というブランド名での販売が続いている。
エアガン
タナカのSIGシリーズは2004年8月現在、P226と9mm拳銃が改良され再販されているが、このP220は改良される前のものである。
外見
一見したところ、それほど成形が悪いものではない。実銃ではスライドがスチール(ステンレスのものもある)、フレームがアルミとそれぞれ材質が違うが、これをプラスティックの素材を変え、色の違いで表現している。刻印は「SIG SAUER」「P220」といったもの以外に、マグナブローバックをウエスタンアームズ社からライセンスしていると云¥いったエアガン関係のものがいくつかあるが、それほど大きくはなく気にはならないと思う。
スライド上部は初期型の特徴的なもの。他のP220シリーズには見られないスマートな印象を受ける。
スライドの形状は実銃における初期型を再現している。現行のP220(9mm拳銃)や、他のP220シリーズのような角張ったものはなく、曲線が多用されている。トリガーやハンマーも後のP226やP228の厚みのあるものとは違った細いタイプ。フレームのパーティングラインなどは綺麗に消されていて、トリガーガードの内側に残る程度。
左側面、グリップ上部にはスライドストップとデコッキングレバーがある。いずれもグリップした右手の親指が届く範囲にあるので、この辺の設計は実銃でも評価されているところで、銃を持ちかえることなく操作する事が出来る。ただ、左利きの人には辛い位置かもしれない。デコッキングレバーはメカニカルな手ごたえだが、ハーフコックポジションが再現されていないため、ハンマーはレストポジションまで落ちてしまう。
シングルカアラムマガジンのおかげでグリップそのものは細いが、実銃が45ACP弾も使用できるよう肉厚になっているため、握りづらく感じる人も多いようである。親指の置く場所がないという意見を聞くこともある。事実、上から下まで寸胴で、親指の付け根が収まるような切り欠きもないので、人によってはしっかりとしたフィット感が得られないかもしれない。トリガーが他のオートマティックに比べて若干遠いが、セレーションも入っているので引きにくいわけではない。
フロントサイト・リアサイト共に固定で調整が出来ず、サイト自体が小さいので、しっかりサイティングしようとするとフロントサイトが半分ほどリアサイトに埋まった格好になってしまう。精密射撃には向かないだろうが、ホルスターから抜くときに引っ掛からなくて良いかもしれない。なお、どうやら金型の問題らしいがリアサイトの凹部分にバリがあり、フロントサイトの下半分が見えない。カッターで簡単に削れるが、作業しづらい部分なので面倒である。
動作
タナカのブローバックガスガンはウエスタンアームズより技術提供を受け、マグナブローバックを搭載している。だが実際射撃してみると、WAのものほどスライド重量がないためかあまり強いキックは味わえない。ブローバック自体もカシャカシャと軽い音がする。スライド自体はするっと抵抗無く引け、バレルはショートリコイルを再現して僅かに上向きになる。
また、マガジンキャッチがヨーロピアンタイプと云われるグリップ底部に設置されているモデルの為、素早いマガジンチェンジが出来ないが、ホルスターなどに携行している際にマガジンキャッチを体側で押してマガジンを落としてしまう危険は少ない。
実銃のSIGハンドガンにはマニュアルセーフティの類は付属していないが、この製品は自主セーフティとしてハンマー右側に小さなパーツがある。ところが初期製品や改良された9mm拳銃などでは外されており、またこの個体に関して云えば、セーフティとしての機能が壊れてしまっている。構えたときに目にはいる位置なので、気になると云えば気になる。
サイトは2ドット。かなりホワイトが剥げやすい。ハンマー右脇にある小さなパーツはトイガンセーフティ。
タナカのガスブローバック全般がそうであるように、まずマガジンからのガス漏れがとても酷い。マガジンが気泡が破裂するような音や、激しいガス漏れの音を立てるので、20〜30センチ離れてもガスが漏れているのが判るという有様である。またマガジンそのものもガスタンクの容量が少ないためか温度に敏感であり、わずかな気温低下でもガスを吹いてしまう。逆に細身なマガジンは冷えてもすぐ暖まるというメリットもあるのだが。
マガジンへの装弾はフォロアーを下げて行うのだが、下げたフォロアーを固定することが出来ないので少々力がいる。フォロアー自体も小さいので12発とはいえやりづらい。また、スライドなどの材質が左右から摘むとぐにゃっと曲がるぐらい柔らかいためなのか破損しやすく、ホールドオープンがかからなくなってしまう。
破損しやすい部分その1。
スライドとフレームが噛み合うレールが、右のチャンバー後方で
トリガーバーと干渉しないように一部薄くなっており、簡単に剥離してしまう。
現在接着剤で固定しているが、強度面ではかなり不安がある。
破損部分その2。スライドストップレバーが噛む部分も大きくえぐれ、ホールドオープンしにくくなる。
更に、ホップアップを調整するには、スライドを外してチャンバー下部にあるネジを六角レンチで廻すという、とても手間のかかる動作をしなければならない。調節ネジもクリックがないので、適正位置でぴったりと止めるのは難しい(無段階調整が出来るという点では良いのかもしれない)。分解して調整し、もう一度組み上げて弾道を確認して更に分解する・・・といった行為を繰り返す必要があり、とてもゲーム中に行えるものではない。
総評
現在この商品は絶版となっている。最近になってタナカは一部ブローバックをリニューアルしてリリースしており、P220の自衛隊モデルである9mm拳銃がRマガジンを搭載して再販されているが、そのマガジンはP220とは互換性がない(作動はするがBB弾を発射するとブローバックしない)。
付属するマガジンの信頼性は殆ど無いに等しい上、スライドの強度などを考えると、サバイバルゲームで酷使するのも、ハイレベルなシューティングを望むのもこの機種では酷である。ガスブローバックでは唯一、エアガンとしてみても殆どないP220というこの銃の魅力は十分味わえるという点を重視しても、タナカの製品やSIGの銃をあえて欲しがる以外であれば、決して勧められる機種ではない。
実銃 エアガン 名称 P220 P220 開発国/生産国
(メーカー名)スイス/ドイツ
(SIG/SAUER)日本
(タナカワークス)全長 206mm 208mm 銃身長 112mm 88.5mm 重量 830g 560g 口径 9×19mm/.38Super/.45ACP 6mmBB 装弾数 9+1 12